強風

電車が止まってまた帰宅難民じゃ困るから、五時前に半ば強引に帰ってきた。駅は逆側のホームから落ちるかと思うほどの人の列。もう列じゃない、群衆だ。それでクソ満員のクソ電車に乗る。あんなのはもううんざりだ。
駅からの道を雨と風の中を濡れながら歩いて帰宅してから、ちょうどその路線が止まったのを知る。止まる前に帰れたのは幸運だった。しかし、自分の帰り方が何となく、何となく後味が悪い。定時前に帰ったのは自分だけじゃないが、一方で残っていた人間もおった訳で、不公平のうちの美味しい方の果実を僕はもぎ取ってしまったのだ。美味しいはずのその果実を食べて、口の中に苦々しさが残る。
明日行ったら嫌味を言われるか。けれども帰らなければ帰る手段を無くしていたのだから僕はあの時帰るしかなかったのだ。そうでなければ、僕は今頃まだ電車の中だ。残っていた他の人たちは食って寝る場所の家が近いというからいいだろうが、僕は違うのだ。帰るしかなかった。
と、正当化するしかない。利己的と思われてもいい。全部今日の天気がいけないのだ。