生き物

昔というほど昔でもない小学生の頃、飼っていたジュウシマツが可愛すぎて手の中でなでなでしてあげたいという、ジュウシマツからすれば小さな親切ですらない余計なお世話に外ならないことを思ってケージの中に手を突っ込んで捕まえようとしたことがある。当然、ジュウシマツはガプガプ言いながら僕の悪の手に捕まらぬように狭いケージの中を翼をばたつかせて逃げ回った。
結果どうなったか。自分勝手な好意という悪意から逃れるべく飛び回った果てに、ケージの隅にあった巣の上に追い詰められて行き場を失ったジュウシマツは、可哀想なことに足に怪我をしてしまった。それ以来、ぴょんぴょんと跳ねることもできずちょこちょことしか動けなくなり、満足にケージの中を動き回ることもできなくなった。そして彼を捕まえることも容易になってしまった。
けれども馬鹿だった僕はそれをいいことに、ジュウシマツを手の中でなでなでするという自分の欲望を存分に満たしていた。僕の手が近付いた時、そして手の中に入れられてなでられる時、彼はどんな気持ちだっただろう。そう思うといたたまれない。
その後もジュウシマツは何年か生きて最期の死ぬ瞬間まで看取ったが、今思うとあれは間接的に僕が殺したんじゃないかと思っている。もちろん直接殺した訳ではなく寿命と言われている年月ほどは生きもしたが、その中で僕が奪った自由はいかほどだったろうと思うと、やはりいたたまれない。
生き物を可愛がるのは難しい。ひょっとすると実家の犬への可愛がり方も自分勝手なものになっていやしないか。