黒い自分

そう言えば大学の時にウンコしたいウンコしたいと思いつつふらふらと構内を歩いていたら、同じ大学だけど現役で医学部に受かった同じ高校の同じ部活だった頭の良い女の子が僕を見付けて話し掛けて来たことがあった。僕に対して嫌いとか少なくとも悪い感情を持っていたら、あの状況で絶対話し掛けて来ないはずだ。少なくとも僕が彼女の立場だったら、あんまり良い感情を持っていない男を見掛けても面倒臭いから見なかったことにしてスルーする。僕じゃなくても大方の人間の思考はおそらくそうだろう。つまり僕はそれほどネガティブな感情を抱かれていなかったんじゃないかということになる。
僕はいつからか、そして何故なのかよく分からないが、自分が嫌われていることを前提として他人との人付き合いを考える人間になってしまった。だから何についても誘いがあったとしても、「いいかい、それは社交辞令なんだよ、本当はお前なんか誰も誘いたくないけどみんなを誘っている手前お前だけ誘わないのは相手にとって都合が悪いから、誘ったという事実を作っているだけなんだよ」と僕が僕に囁くから、誰からの誘いも断ってしまっていた。当然ながら、僕のこの醜い内面の思考を説明するような鬱陶しいことなんてせず、適当な理由を付けて笑顔を浮かべてやんわりと断っていた。表面的には「忙しい人」だった。
もっともどのケースでも嫌われているという確証があったわけではない。少なくとも相手が知り合いである限り僕に対する接し方は好意的だったし、いじめや仲間外れなんて経験したことは全くなかった。
それなのに僕は自分が嫌われているのだと決め付けて、好意であるはずの誘いも蔑ろにしてどこかへ逃げていた。そうして他人とはあまり関わりを持たなくなったし、そうしているうちに他人の方も関わってこなくなって、あけおメールの一つも来ない今へと繋がってしまっている。もういい加減忘れたいが、X さんの件もこの延長線上にあるのだと思う。
これは一体、何が原因なのだろう。何故僕は自分が嫌われていることを前提として考えるようになったのだろう。他人からすれば僕のような考えをする人間にはどんな感情を抱くだろう、と考えてシミュレーションを試みたが、すぐには結果が出ない。
このままだと今後も絶対後悔するに違いない。こんな考え方はちょっと変えないといけない。しかし、この十何年も染み付いた考えというものは変えようと思った程度で容易には変わるわけがない。難しい。
しかしあの女の子は今頃医者になっているんだろうか。対する僕はコーヒーを飲んだら布団を敷いて寝る人間だ。