日食グラス

七月二十二日には、関東でも部分日食が見られるらしい。何十年に一度というせっかくの機会だから、日食で欠ける太陽を見ようと思って日食グラスをネットで探した。ところが何処も売り切れで、アマゾンを探しても楽天を探してもその他の通信販売サイトを探しても同じように「品切れ」という文字で突き放していた。
きっと全国の僕と同じようにせっかくの機会に日食を見たいと思ったニートとか主婦とかお年寄りとかが僕よりちょっと早くから買い求めて、日食グラスは品切れてしまったんだろう。新型インフルエンザのマスクが売り切れた時と同じ傾向だ。普段は用もない物が何かイベントがあると飛ぶように売れる。これで儲かりに儲かっている人もいるんだろう。いい商売だと思う。
もう七月二十二日まで五日もないから、日食グラスは諦めた。別に直接欠けた太陽を見なくたって、どうせ生で見るよりもずっと高品質な映像がテレビで流れるに決まっている。youtube にでもアップロードされてそこで見られるのも間違いない。僕のような一般人は、日食グラスなんかなくてもそういうのを見ればいい。どうせなら当日は曇りになって、日食グラスを買った人たちが太陽を見られずに悔しがって、僕の手に入れられなかった日食グラスたちは新品のまま使われずにそのまま次の日食の日までタンスの奥にしまわれてしまえばいい。それでみんなで NHK ニュースの綺麗なハイビジョンの日食映像を見ることになる。そうすればみんな平等だ。僕も満足する。誰もが満足する。
ところで楽天市場で「日食グラス」を検索すると、面白い光景が見られる。「日食グラスプレゼント」という名前の付いた商品が売られているのだ。具体的には、何かを買うと日食グラスがおまけとして付いてくる、といったもの。どれもみかんやらウェブカメラやら普段はあまり売れそうもない物を、今飛び切り売れるであろうものをおまけとして付属して売りつけている。中にはマスク何百個のおまけとして日食グラスを付けて売っている業者もあった。新型インフルエンザが一段落した後で、よっぽどマスクが余って仕方がないらしい。マスクの山に囲まれる中、苦肉の策でこの日食グラスプレゼント商法に懸けたんだろう。いやらしい奴らだ。マスクの山が崩れてマスクで窒息死してしまえばいい。
こういったイレギュラーな売り方をする業者が買わなくてもいい日食グラスを買ったおかげで、正当に日食グラスだけを買い求めている僕が日食グラスを手に出来なくなったに違いない。恨ましい。