ガスボンベ

本棚にガスボンベが置かれている。いつから置かれていたかは分からない。ただ使われた形跡はなく、その赤いキャップの部分にほこりをかぶってさえいる。おそらく以前、ライターにガスを補充するために買ったのだろう。しかしその肝心のガスを補充するためのライターが、手元には一つも見当たらなかった。ガス補充を必要としないはずの使い捨ての百円ライターなら、机の引き出しの中にいくらでもある。僕はいつも喫煙用に百円ライターを購入して済ませていた。だから本来はこんなガスボンベは必要なかったはずだ。それでは一体、僕は何の為にこのガスボンベを買ったんだろう。
それはたぶん、死ぬためだったのかも知れない。

警 告
故意に過剰に吸引すると
酸欠のため窒息死します。
絶対にお止め下さい。

僕自身能動的に買ったという覚えがないから、働きたくないという心理が無意識のうちにガスボンベを僕に買わせたに違いなかった。隙あらば、僕の中の「働きたくない」はビニール袋にガスボンベの中身を充填させてそれを僕の頭に被せるつもりだったのだろう。そう考えると恐ろしい。働きたくないと常日頃から考えていると、自分の知らないうちに死んでしまいかねないというのだ。
そんなにまでして、どうして僕は働きたくないのだろう。