集団が持ちうる人間関係の数

人間関係は人が二人以上いれば発生しうるもので、人はその場にいる人間によって顔が変わるものだと思う。
例えば A, B, C の三人がいたとして、A は B に対して好意的な態度を取るが、A と C とはその性格が不一致であることから犬猿の仲であり、B は C に従属し精神的支配を受ける関係である。一方で A と B と C が集まる場では、A は C への複雑な配慮によって、一対一の場では好意的な態度を示していたはずの B に対して冷たい態度を取るといったことも考えられる。
また例えば、七人のおばさんが井戸端会議で芸能人の話をペチャクチャゲラゲラと喋っているとする。そのそばを近所に引っ越してきた若妻が通り掛かり、その一瞬の「場」が八人の人間関係を持ったとき、七人のおばさんは若妻のあることないことを聞こえよがしに喋り始める。「場」の人間構成が変化したことで、芸能人の話をする七人の人間関係から若妻を貶す八人の人間関係に変貌したと言える。


ではある特定の集団に n 人存在する場合、何通りの人間関係が生まれることになるだろう。
例えば 2 人の場合は A-B の 1 通りで、3 人の場合は A-B, A-C, B-C, A-B-C の 4 通りとなる。4 人の場合、...と計算していくと、n 人の集団に生じうる人間関係の組合せの数は
f(n) = \sum_{k=2}^n{}_n {\rm C}_k= \sum_{k=2}^n\frac{n!}{k!(n-k)!}
となる。
f(2) = {}_2 {\rm C} _2 = \frac{2!}{2!(2-2)!} = 1
f(3) = {}_3 {\rm C} _2 + {}_3 {\rm C} _3 = \frac{3!}{2!(3-2)!} + \frac{3!}{3!(3-3)!} = 3 + 1 = 4
f(4) = {}_4 {\rm C} _2 + {}_4 {\rm C} _3 + {}_4 {\rm C} _4 = \frac{4!}{2!(4-2)!} + \frac{4!}{3!(4-3)!} + \frac{4!}{4!(4-4)!} = 6 + 4 + 1 = 11
f(5) = {}_5 {\rm C} _2 + ... + {}_5 {\rm C} _5 = \frac{5!}{2!(5-2)!} + \frac{5!}{3!(5-3)!} + \frac{5!}{4!(5-4)!} + \frac{5!}{5!(5-5)!} = 10 + 10 + 5 + 1 = 26
f(6) = {}_6 {\rm C} _2 + ... + {}_6 {\rm C} _6 = 15 + 20 + 15 + 6 + 1 = 57
ここで得られた組合せ数の階差 f(n) - f(n-1) を取ると、
f(2) = 1, f(3) - f(2) = 3, f(4) - f(5) = 7, f(5) - f(4) = 15, f(6) - f(5) = 31
である。これを関数の形にすると、
g(n) = f(n) - f(n-1) = 2^{(n-1)} - 1
となり f(n) は階差 g(n) の和であるから
f(n) = g(2) + g(3) + ... + g(n) \\ = \sum_{k=2}^n {g(k)} = \sum_{k=2}^n {2^{(k-1)} - 1}
で表される。
この時の総和を S _n とすると、
S _n = g(2) + g(3) + ... + g(n-1) + g(n) \\ = (2^1 - 1) + (2^2 - 1) + (2^3 - 1) + ... + (2^{(n-2)} - 1) + (2^{(n-1)} - 1) \\ = 2^1 + 2^2 + 2^3 + ... + 2^{(n-2)} + 2^{(n-1)} - (n - 1)
また
2{S _n} = 2(2^1 - 1) + 2(2^2 - 1) + 2(2^3 - 1) + ... + 2(2^{(n-2)} - 1) + 2(2^{(n-1)} - 1) \\ = 2^2 + 2^3 + 2^4 + ... + 2^{(n-1)} + 2^n - 2(n - 1)
よって
S _n = 2{S _n} - S _n = (2^2 + ... + 2^{(n-1)}) - (2^2 + ... + 2^{(n-1)}) + 2^n - 2^1 - (n - 1) \\ = 2^n - n - 1
したがって n 人が存在する集団の 2 人以上の人間関係の組合せ数は
f(n) = 2^n - n - 1
で求まる。


という高校生程度の問題をググりながら解くと、僕の職場は最高で 1,152,921,504,606,846,915 通りという訳の解らない数の人間関係の場が生じうるということになった。5 人しかいない職場だと 29 通りの場しかないのに。恐ろしい限りだ。
もっとも全職員が一堂に会する場なんてものは滅多にないし、あったとしてもその「場」がそのまま人間関係を決定付ける要素になることもないだろう。1,152,921,504,606,846,915 通りはあくまでも場を構成する人間の組合せの数でしかない。人間関係はもっと複雑で恐ろしい。