人事を尽くさずして果報は来ず

数ヶ月前に、長期的にこれからどうしようかと考えて、医療分野の英日翻訳なら研究室在籍時に英語論文を読んだ程度の経験もあるし何とかできるだろうから仕事を請け負って一人で食っていける分には困らず生きていけるだろう、と今から考えれば浅はかに思い付いた。そしてある翻訳情報サービスに入会して、早速医療に関連するというよりむしろ今の仕事にドンピシャな分野の模擬的な試験が催されていたのが目に付き、どうしようかと思う間もなく課題を解き始めたのだった。
課題の英文を読むと、よくある情報提供の文章だ。分野は分野といっても言語が違えば分からない単語がある。手持ちの古い一般辞書で調べてどうにか単語の訳を出し、文章として繋いでいく。こりゃいけるじゃないか。しかし出来上がった日本語の文章は何だかおかしい。文章ではなく、文の羅列だ。いや、これでいいのだ。情報の文書なんだから要点があればいいんじゃないか。躊躇せず 1500 円ほどの受験料を払って、その何だか引っ掛かりながらも根拠のない自信のある文章、もとい文の羅列を提出した。1500 円で今後の取っ掛かりができれば安いものだ。そう考えていた。
そして待つこと数ヶ月の先月末、翻訳情報会社から封筒が送られてきた。もう封筒を見るなりあの結果だろうなとうきうきしながら開封し、予想通り入っていた評価結果の紙ペラを見る。けれどもそれは酷いものだった。最低評価は免れたが、なんとまあ現実は厳しい。ただ、あの訳文を考えればすぐにその評価には頷けた。あれはやはり文の羅列だったのだ。機械翻訳並みかそれ以下の訳文でしかなかったのだ。
普段から何の勉強もしていない人間がぽんと良質の訳文を作るのは無理だった。専門分野が一致していたとしても、質の良い翻訳ができるかどうかは全く別次元の問題だ。それを知った 1500 円の勉強料。