まだ仕事を辞めていない

しかしよく考えれば、僕は今の職場を一年近く経ってもまだ辞めてはいない。よく続いているなと思う。二年前は毎日辞めたい辞めたいと思っていたし言ってもいて結局半年足らずで辞めてしまったが、今はその時とは違ってあまり辞めたいとは思っていない。しかもより通勤に時間が掛かるし、週三勤務だったのが今では週五だし、職場全体の人数も十倍以上多いし、それにも関わらず、だ。僕の理想とは異なった環境であるはずの今の仕事の方がより長く続いているというのは、不思議な状況に思える。
何が影響しているのかは知らない。考えられるのは、実は職場は多人数である方が僕に合っていたのかも知れないということ。以前の職場ではせいぜい多くても十人程度だったし、直近の職場では四人だ。毎日職場に行っても同じ人間としか顔を合わせないのだから、何かトラブルがあった場合はそのことに精神的な余裕を割かれて非常に気疲れする。しかし数十人もいるとなれば、トラブルは必ずしも一対多だけではなくて多対多でさえ有り得る。このことによって割かれる精神的な余裕はそれぞれに分散されて、結果的に一つ一つのトラブルの重大さは軽くなる、のかも知れない。
あるいは、それぞれの職場にはそれぞれの職場独特のパワーバランスがあって、それに上手く入り込めなかったりはじき出されたりした時の絶望感ときたら、もう本当にいなくなりたいという思いに囚われてベランダに立ち尽くすほどだ。それが今の場所ではまだない。これがそのパワーバランスに上手く取り込まれた証左かどうかは分からないが、少なくともはじき出されるほどではないという現状の表れなのかも知れない。それともただ単に僕が鈍感なだけなのかは知らない。
願わくばもうしばらく続いて欲しいが、僕の小っちゃな精神的な器はいつ溢れてしまうか、それが心配だ。明日かも知れないし、来月かも知れない、五年後かも知れない、それとも永遠に訪れないかも知れない。けれどももしもその時が来てしまったら、僕は耐えられるだろうか。