本当に怖い

通勤はもうどうでもいい。いやどうでもよくはなくて、大動脈路線だし僕が混雑と思っている以上に混むのだろうけれど、待っていれば着く。
それよりも、職場に馴染めるのか、受け入れられるのか、いじめられないかが不安でたまらない。この業種は一般的に行動範囲が超が付くほど狭いので、一旦入ったにも関わらず中で孤立してしまうと、やはり超が付くほど精神的にしぬ。
狭い空間で就業する八時間余り、誰とも口を利くことができない、ということも有り得るかもしれない。まだそれなら良い方で、居るだけで邪魔者扱いされ、挨拶をすればその声はただ職場の空間に虚しく響くのみで何も返ってこず、すれ違えばその度に静かでありながら強い調子の誹謗の言葉を浴び、業務でミスがあれば全員の集まる前で吊し上げられて罵声を喰らい、シフト表すら渡されず、飲み会にも誘われず、果ては私物を生ゴミと一緒に捨てられる。そうして泣く泣く退職届を書くことになり、得たものは経歴を二行埋める短い職歴だけでしたとさ。
病的だ。まだ職場を見てすらもいないのに、採用が決まってすらいないのに、こんな病的な想像、あるいは妄想が膨らんでいく。完全に病的だ。いかに自分が悲観的な人間かが窺い知れる。どうしてこんなに恐れているのだろう。
一度だけ、前の前の職場で酷い目に遭った。集団ではなく一対一の関係だったが、非常に辛かった。後から思えば、ほんの些細な出来事が二、三、重なっていって、ああなったのだろう。入社した時からしばらくは優しかった三十過ぎの女の人が、あんなにも豹変するとは思わなかった。その理由について、こちらに思い当たる節は確かにあった。だからそれについて謝ったが、何も好転しなかった。狭い職場で一日中息も詰まる状況で、精神的にしんだので逃げるようにして辞めた。
この記憶が強すぎる。非常に強く刻まれてしまっている。頭の中で再現するだけで、夕食が口から出てきそうだ。この記憶が、未来への病的な妄想を引き起こしているのかも知れない。とっとと忘れればいいが、記憶なんて忘れられるものでもない。
僕が弱すぎるのは言うまでもない。強ければ、当時も乗り切ることができただろうし、同じように辞めていたとしても過去は過去と割り切って考え、すぐに次の職場を見付けていたはずだ。弱いからこそ、その後ブランクが空いたし、その後の場所でもミスを叱責されただけで死にたくなって辞め、またブランクを空けてしまっている。しかもその弱さをどうにかしようとした跡もない。とことん腐っている。
こんなだからせっかく応募しておきながら、もう辞退しようかとさえ思っている。辞退せずとも、面接で「人間関係が不安」と言えば即落ちだろう。いや何も言わずとも、弱くて腐った内面を見透かされて落ちるだろう。


……冷静に考えたら、「こんなだから云々」のくだりも「逃げ」以外の何でもないな。まだ起きていないことを気にして、必ず起こることとして考えている。思考回路が何か変だ。弱い云々も、働きたくない言い訳にしか聞こえない。全部後ろ向きでしかない。
もう何も考えないことにしよう。