戯れ言

薬局にいた頃、湿布の服薬指導をする時は「かぶれないように注意して下さいね」と大抵言っていたが、実は僕自身は“かぶれ”がどのようなものかあまりよく解っていない。かぶれって何だ。発疹とどう違うのか。そもそも発疹というのもあまりよく解っていない。カウンタ越しに患者さんから「発疹ができちゃって」と見せて貰ったことはあるが、ああやって覚えていくことが正しいのだろうか?
これが僕が学生時代あまりにも不真面目だということで僕だけに限られたことでなければ、ここらへんが薬学教育に欠如している、あるいはしていた部分だろうな。カリキュラムには入っていないから、自分で積極的に学ぼうとしない限り、臨床的な所見の実際を知ることがない。だから懸命に暗記中心のお勉強をして薬剤師免許を取ったとしても、医師にも看護師にも到底立場が及ばないのだ。“袋詰め師”と悲しい揶揄をされさえするのだ。
ちょっと前から薬学部に六年制教育が導入されたが、病院と薬局でそれぞれ二ヶ月半の実務実習が必修科目となった。四年制時代にも二週間ごとの実習があって、僕も自転車で一時間掛けて通った経験がある。しかし受け入れ側からすればかなりの負担だったのだろう。日々の業務で忙しいところに表向きは何にもできない学生がぽんと来たところで仕事の邪魔なだけだ。内々でピッキングくらいはさせてもらったが、それ以上のことはできない。
事実、薬局実習では流れの説明が終わると休憩室に連れられていき実習ノートの記録を付けるように言われたものの午後五時まで放置状態だったし、病院実習では午後三時過ぎくらいに「じゃ今日はみんなもう帰ってもいいよ」と帰されたことがある。当時は一人で気楽だったり早く帰れたりというので嬉しかったが、今考えたら複雑だ。単に邪魔者扱いされていたんじゃないかと思う。
六年制になってから実習制度が変わって実際の業務に似たようなこともできるようになったらしいが、それだけで十分なのだろうかと思う。薬局や病院にとっては、採用後の教育は面倒だから単に卒業イコール即戦力となる人材を供給して欲しいとか、そんな思惑があったりするんじゃないか? それはそれでいいが、それだけでいいのだろうか?
そもそも薬剤師がどう医療に関わっていくかが不透明だ。医師や看護師は機械で代替し得ないが、今の薬剤師の役割なんぞは代替し得るのだ。それだけ権限が小さすぎる。その小さな庭の中でどれだけ立派な城を作っても、広い土地に建てられた一軒家には到底及ばない。では権限を拡大するとなると、どこに拡大する余地があるかという話になる。無理矢理拡大して採血や注射なんて業務に入り込めば、「それ“薬剤師”がやることなの?」となる。
何なのか分からなくなってきたよ。明らかに僕は勉強不足だ。経験も不足している。どうこう言う資格はまだ無いのかも知れない。