生まれてこなかった家族

することもなくゲームのレベル上げをしていて、あることに気付いた。気付いた、というよりも思い出したと言った方が適切かもしれない。
僕には今の妹の他にもう一人、弟か妹がいたかも知れない。これは別に実は生き別れの兄弟がいたのだとかそういうロマンティックな妄想ではなくて、時の流れが違っていればいたかも知れないということだ。
母親が流産したのは、僕が確か小学四年生くらいの頃の話だ。母親のいない薄暗い部屋で幼い妹と並べさせられて、父親からその事実を涙ながらに知らされたことをかすかに憶えている。
流産したことは誰のせいでもないし確率的で仕方のないことだから今さらどうこう言うつもりは毛頭ないが、もしもあの時母親の腹の中に宿っていた胎児がそのまま育ち、この世に生を受けていたとしたら。男か女か知らないが、もう一人家族がいたということになる。僕は三人兄弟姉妹だったということになる。「お兄ちゃん」と僕を呼ぶ人間がもう一人いたということになる。
十歳違いの弟か妹。存在していたかも知れない見知らぬ存在を、僕はいつの間にかレベル上げの手を止めて頭の中に浮かべて遊んでいた。そいつがいたとしたら、今頃高校生になっていたのか。勉強を教えたり、社会のふざけた仕組みを語ったり、ゲームを買ってやったり、エロ動画の落とし方を教えたり、菓子を奪い合ったり、そんなことをしていたのかも知れない。
けれども、いない存在との戯れはただ虚しかった。やっぱり、歴史に「もしも」は禁句だ。