ネットゲーム

少し前、ネットゲームに登録して短期間ながらはまったことがある。ネット上の知り合いなんていないしゲーム内の知り合いを作っても人間関係が煩わしいと思っていたから、専らひたすらモンスターを斬り倒し続けるというソロプレイをしていた。
けれども延々と一人で遊び続ける横で他のプレイヤー同士の仲の良さそうな会話などが聞こえるのが気になり始めてから初めて寂しい気持ちに気付いて、とうとうゲーム内のギルドに入って他人と関わりを持ちたいと思い始めた。そして実際に様々なギルドの紹介を見回って、人数が少なくなく多くなくかつルールも適当なギルドを見定めて加入をした。
が、どうだろう。ギルド内の誰かがゲーム内にログインすると、「〜〜がログインしました」と表示される。その度にギルド内のメンバーだけが参加するチャットで「こんばんはー」だの「^^」だの挨拶が交わされるのだ。ログインしたメンバーは律儀にもきちんとそれに応えていたから、僕もしなければならないと思って遅ればせながら「こんばんは」と打つ。そして夜も更けてくると「落ちます」というメッセージが表示されると、それに続いて他のメンバーからの「お疲れさまー」だの「またねー」だの別れの挨拶が流れる。みんなしているからやはりしなければならないのだろうと思って、僕も「お休みなさい」と打つ。その時は「ああ、これがネットゲームの文化か」程度にしか思わなかったからまだ別に良かった。
そして僕も夜は眠らなければならないから落ちることにして、他の落ちるメンバーがしていたのと同様に「そろそろ落ちます」と打つ。本当は面倒で挨拶なんてしたくなかったが、郷に入っては郷に従えだ。新入りなのだからするしかない。他のログインしているメンバーがいたようなので、返信がないうちに落ちたら失礼なのではないかと思って返信が来るまで落ちずに待っていた。
けれども来ない。何分待っても来ない。ちょっとタイミングが悪かったのかなと思いながらその後も待ってはみたが一つも返信がない。何だこれは。新入りだから冷遇されているのだろうか。とうとう待ち続けるのもアホらしくなって落ちた。
それ以降はログインする度に挨拶することが億劫を越えて嫌悪を感じるようになったので、一切ログインしなくなった。ギルドに加入して一日でログインしなくなったプレイヤー。そんな僕は当然のように、二週間後にギルドを脱退させられていた。何だったんだこいつは、とでも思われたのだろうけれど、今となっては別にいい。挨拶程度に悩んで胃を痛めることになってもおかしな話だろう。僕はギルドには参加せずに、延々とソロプレイを楽しむべきだったのだ。
このネットゲーム上でのログイン・アウト時の挨拶と応答は義務なのだろうか。だとしたら、煩わしい。煩わしい。煩わしい。煩わしい。義務の挨拶なんて面倒だ。好きな時にログインし、好きな時にログアウトできるのがネットゲームの利点であって醍醐味じゃないか。いちいち入った後にこんにちは、出る前にさようなら、そんなのは現実の関係までで十分だ。
それとも、他の大多数の人は現実で部屋に出入りするのと同じようにネットの世界でも挨拶は必須だと考えているのだろうか。Google で検索などをしてみても、インアウト時の挨拶は最低限のマナーだと述べているサイトもある。これがどうしても解らない。限定された空間のチャットじゃあるまいし、義務の挨拶が一体何をもたらすというのだろうか? 煩わしさしか感じない。僕はやっぱりずれているのだろう。