そういえばアレ

おとといの真夜中に、洗面台に黒いアレがいた。お化けに恐怖するものと似たような怖さを感じてすぐに緑色の缶のスプレーを持ち出し、こちらに飛んでこないように洗面台の空間をまるごと包み込むように何十秒も噴射したらぱたりと引っ繰り返って動かなくなった。また動き出しては安心できないので、動かなくなったアレにさらに何十秒も噴射し続けた。あの場でライターでも点けようものなら爆発事故が起きていたかも知れない。
アレを仕留めるのは化学物質頼みで簡単だったが、後始末がどうももっと怖くていけない。アレは腹を上に向けていて微動だにしない、おそらく死んでいるただの死骸に違いなかった。けれどもアレの生命力は知られているとおり人智を超えたものだ。死んでいると見せ掛けて実は動きを止めていて、敵が去った後で何事もなかったかのように起き上がり活動を再び始める、そんな狡賢さがアレの DNA レベルで組み込まれているに違いない。そんな生物学的な畏怖のせいで、後始末に何十分も掛けることになった。
夏はこんな邂逅も仕掛けてくるから嫌いだ。嫌い嫌い嫌い。