ああ出たい、旅に出たい

特定の家というものを持たずに各地の民宿を数週間単位で回って生活できたら、それはとても面白そうな生き方なんじゃないかと思う。
問題は金だ。一泊二食付で平均して 7000 円と見積もる。一年暮らしたら 7000 * 365 = 255 万円だ。普通に生活していて一ヶ月の生活費を 15 万円としたら 180 万円だから、民宿で暮らすとなるとおよそ 1.5 倍 + αの金が掛かる。割り増し分はその「面白そうな生き方」をする金だと思えば仕方がないのかも知れない。
だいいち各地を回るとなると、収入を得る方法はどうするのか。支出が増加することについて納得できても、収入がなければどうしようもない。普通に収入を得る、あるいは得やすい方法は、被雇用者になることだ。ただしそうなれば、業務内容が労働の場所を問わないものでない限り、働きながら各地を回るなんて芸当はできなくなる。毎日飛行機で出勤するのは体力的にも金銭的にも不可能だ。
となると場所に依存しない事業を営む形の個人事業主であれば可能なのかも知れない。しかしそれも何らかの技術や能力がなければ仕事を得ることも難しいだろう。運良く仕事があったとしても、それを維持するために民宿に宿泊しながら働かなければならないなんて、面白そうとは程遠い不安定な心持ちの中で「普通の生活」を望むようになりそうだ。よっぽど稼げる人間でなければ、苦労と楽しみは相殺どころか何倍も大きな苦労に楽しみは飲み込まれてしまう。
ああ無理だった。僕には無理だった。一年中民宿で暮らすなんて無理だった。