ある薬剤に関する雑感

半年あまり前から医療業界のみならず連日報道でも取り上げられていた問題が、とうとう厚労省による刑事告発によって薬事法違反容疑の刑事事件に発展した。国内で大手の製薬会社が誇大広告で告発される例は、少なくとも僕は聞いたことがない。
この会社の MR が一昨昨年あたりに連日のように来たことがある。この薬剤、そしてこの薬剤と同じ成分が入った配合剤二種の PR だった。他社と比べると非常に訪問頻度は高く熱心だと思ったけれども、他社の MR がアポイントを取ってから医師を訪れるところを毎回アポ無しでいきなり現れて医師との面会を申し入れるものだからやはりやけに熱心だった。
PR 内容はほぼその三種だった。会社としてよほどそれに商機を見出しており、MR にも大きなノルマが課せられていたのかも知れない。実際この MR が何度も訪れてから、医師の方から採用するように指示があり、新たに別容量の薬剤と配合剤一種が採用薬となった。そしてこれらの適応症の付いた Pt にはほぼ七割はこれらの薬剤が処方されることになった。
それ以降の MR の訪問頻度は間違いなく下がった。そして去年にこの薬剤の問題が拡がり初めてから、釈明か何かか今度はアポを入れてちょくちょく訪問するようになり、今もたまにいらっしゃっている。何だかとてもしおしおとしている。
個人的にはこの薬剤の有効性は失われていない、少なくともあると思うけれども、信頼性、とりわけこの薬剤の他社同種薬剤への優越性に対する信頼性は大きく損なわれたのは間違いない。服用する側にとっては、そんな不正の行われた薬剤なんて体に入れたくないのは当然だろう。信頼性の損なわれた安全性は、心理的な危険性になってしまう。
事実報道が行われて以降、この薬剤が処方され服用している患者さんから問い合わせが何件か続いた。またある程度の処方のうちこの薬剤が他社同種薬剤に切り替えられたり、果てはその他社の MR がこの問題で隙を突いたかのように PR に来たものだからそれが採用薬となったりもしている。
刑事告発にまでなったことで今後の状況に変化があるのだろうか。この薬剤をあまりストックしておきたくない。