スネ毛モモ毛を剃りにけり

毎日クソ暑い中で駅から家まで歩くとスラックスが汗まみれになるので、この膝にまで毛が生えるような毛だらけの脚がいけないのだ、この脚の毛をどうにかすればきっと涼しくなるのだ、と常日頃から思い続けて、つい先日にスネ毛と太腿の毛を剃ってしまった。自転車でロードレースに出るでもなしに、一体何をしているのかと僕の中の常識が僕に問い掛けてきたが、僕の素足を見る人間などいないのでどうしようが僕の勝手なのだ。
剃った直後はさっぱりとツルツルになって、扇風機の風に当ててみれば直に風を皮膚に受けるものだからひんやりとする。意外にも体感的には気分が良い。そしてそれはまあ、綺麗な脚だった。余分に肉も傷も付いていない、綺麗な脚だった。内股にして脚だけ写真にでも写してどこかの画像掲示板にでも貼れば、もう少し上もう少し上、などと要望が来るかも知れない。そんな脚顕示欲が僕にあるかは別として、とにかく毛が除かれただけで全く見た目が見違えるようになった。
しかし、それもたった一日間の悦びだった。
二日もすると、ぽつぽつと目立って毛が伸び始めてきた。剃ったものは伸びてくるのだから仕方がないと思っていたが、見た目が気持ち悪い。元がフサフサだから、毛穴の数が尋常じゃない。その尋常じゃない数の毛穴から、一本一本、短く黒い毛が棘のように伸びているのだ。脚を撫でると、剃り立ての時に感じたあのツルツル感はもうどこにもない。チクチクと突き刺される感覚しかない。
そして、痒い。よく見れば、毛穴の 20 個に 1 つくらいは炎症を起こしたかのように赤くなっている。これは剃り方や剃った後のケアがいけなかったのだろう。何も考えず剃り、その後も何もしてこなかったのだから、剃られた方がびっくりして炎症を起こしてしまったのだ。
そしてもう綺麗な脚はどこかへ行ってしまった。ボツボツの黒と赤の点々が混じる、毛まみれとはまた別の気持ち悪い脚が出来上がってしまった。
ただし、スースーする感じはまだ残っている。間違いなく、脚は涼しくなった。
もうこの夏はこの見苦しい脚で乗り切ろう。