ホームシック

嫌な嫌な悪夢としか言いようがない夢を見て、就寝後二時間足らずで目が覚めた。普段なら起きるはずのない時間に、家族を失うという夢の内容を思い返して布団に寝転がりながらじゅくじゅくと泣きに泣いた。大の大人が。大の大人が。
そして突発的に強いホームシックに襲われた。大学に入ってからもう十年以上実家を離れているが、もう帰りたくなった。退職希望理由、ホームシック。もしそう告げたとすれば、呆れられるのは間違いない。しかし実際、帰りたくなってしまったのだから仕方がない。日本国憲法にある職業選択の自由を都合良く解釈するのなら、それはいつ辞めようとも自由ということになる。職場単位の就業規則や現実的な責任の問題など、最上位の法規である憲法の規定の前では例外を除いては無効だ。その例外である公共の福祉に反する行為に、ホームシックに罹ったので一ヶ月の猶予期間をもって辞めるという行為が含まれるとは思えない。我が儘で顰蹙を買う行為ではあるだろうが、この場合は辞める自由に反しないだろう。さて、いつ切り出すか、どう切り出すか。
などと考えているうちにまた眠りに落ちて、いつも通りの時刻の朝になっていた。ホームシックの気持ちは薄らいでいた。結局、突発的なものは突発的なもの以外の何でもなかったのだ。そうしていつも通り通勤に向かっていた。
結局ホームシックを理由に辞めるなどと宣言する行為を現実にすることはなかったが、選択肢として実家に帰ってもいいという思いはある。そもそも大学に通うための場所がいつの間にか居心地の良過ぎる本拠点となってしまった、つまり長居しすぎたのだ。部屋ももう狭い。辞めないにしても、そろそろ移り時か、とも思える。
しかしあんな夢を見たというのは、現実でよっぽど不安や不満があるということか。無意識下に実家に帰りたいという思いがあって、それがあんな夢を見させたのかも知れない。あるいはこれも、例の「働きたくない」が仕組んだ罠なのかも知れない。