次なる不安

通勤はだいたい分かった。通勤の不安は少し乗り越えられた、気がする。
そして不安は、いよいよ職場の環境に対するものへと遷移する。考えてみれば、一体なぜこのボロボロの酷い経歴かつ職種未経験の僕が、資格専門職とは言え、面接らしきこともなく顔合わせ程度ですぐに採用されたのか。その背景には、恐ろしい現実が待っているのかも知れない。
職場に誰かによるとんでもない独裁体制が敷かれているとか、パワハラに他ならない罵詈雑言が日夜飛び交っているとか、日常的に暴力による教育が行われているとか、採用された部署が組織内で陰惨たる虐めの対象となっているとか、黒い服を着た怖そうな人たちが揃って毎日職場の借金の取り立てに来るとか、……。おお、考えただけで失禁してしまいそうだ。恐ろしい。
それで採用すれども採用すれども、環境がそんなだから人がすぐに辞めていき、なかなか定着しない。輝かしい日差しのような希望を胸に抱きながら入職したものの、深い深い海溝のように真っ暗な絶望の末に職場を後にした何十人、いや何百人もの後釜となったのが、僕だった、と。つまり餌食である。
向こうとしては、入る意志を示す人間なら誰でも良かったのではないだろうか。必要なのは僕という「個人」ではなく、「人間」そのものだったからこそ、面接であれこれ個人的なことを訊く必要がなかったし、直属の上司が出てきたり業務内容をあれこれ説明したりする必要もなかった。そうして職場はさながらゴキブリホイホイの如く待ち構え、業務内容よりも職を求めること自体を第一とするボロボロの経歴を持つ僕のような人間がホイホイと入ってくるのを待っていたのだ。
考え過ぎか。しかし考慮はしておいた方が良さそうだ。なぜこの時期に、この職種で、埋める人員が僕である必要があったほど人手不足なのか。そして人手不足であることが、組織として、根本的に何らかの大きく複雑な問題を抱えていることに原因があるのではないだろうか、と疑いたくもなる。
いや、やっぱり考え過ぎ。ホイホイ入ってくるのを待つほど人手不足なら、そんなに簡単に辞めさせないだろう。だから組織自体が腐っていたとしても、少なくともしばらくの間はその顔を僕に見せようとはしないだろう。しかし、あるいは、この組織の色に染まれないなら勝手に辞めていいよ、という体質だったりするのかも知れない。
これ考えるとキリがない。何かいい匂いのする餌が転がっていたとして、それが本当に餌なのかゴキブリホイホイハウスの罠なのかどうか不安がって躊躇するゴキブリがいるだろうか? その前に僕はゴキブリじゃない。
全ては実際に入ってからだな。組織の本当の体質は、外からでは分かるわけがない。