僕には何の趣味もない

ネットで知り合って間もない人とのメールのやり取りの中で「趣味はあるか」と訊かれて、僕にはこれと言って趣味と呼べるものがないということに気付かされた。本当に何もない。頭の中を懸命にこねくり回しても、趣味と呼んでいいものが何も出てきやしない。だから趣味としては何も答えずに、代わりに近頃読んだ小説の作者を適当に挙げて「そういうものを読んでいる」と答えた。
確かに最近は以前に比べて本は読んでいるけれども、読書はあまり好きじゃない。むしろどちらかと言えば苦痛を伴う行為に近いから、それを趣味だなんて言えやしない。漫画の方は全く読まなくなったし、アニメも見ない。ゲームもあまり打ち込んではやらなくなった。
音楽は常に流して聴いているほどだけれども、最近は別に特別好きなアーティストがあって聴いているわけでもない。ただ何となく音楽があれば気分が乗るから色々なものを流して聴いているといった程度だ。これではとても趣味とは言えたものじゃない。
聴く方もそんな形だから、弾く方もさっぱりだ。暇なときに適当に曲に合わせてギターでがちゃがちゃコードを弾いているだけで、上手くなろうと意識して練習したこともほとんどない。楽器の方もまともに弾かない奴に買われたのでは「僕はオブジェじゃないんだ」と泣いているんじゃないかと思ってもしまうが、これまでに壊したこともないし名前を付けて可愛がるくらいだからおそらくそれはないはずだ。けれども熱心に弾かないんじゃやっぱり趣味とは言えない。
ペンタブレットを持っているからそういったツールを利用して絵を描くことはできるけれども、まともに描くことは思っている以上に面倒臭い。だから普段から描かない上に練習もしないから上達もしない。落書き程度で終わってしまう。これも趣味じゃない。
アウトドアの分野にも僕は趣味を持たない。スポーツは高校までは部活に入っていたけれども、最近は全くしていない。いきなり活発に動くようなことをすれば、翌日は筋肉痛になって動けなくなるくらいだろう。釣りは以前行ったことがあって自分で釣った魚を夕食に食べることに若干の満足感を覚えたけれども、道具やらの準備や移動が面倒だから頻繁に行けるものでもない。たぶん趣味にはできない。
自動車やバイクなどの免許は持ってもいない。興味すらない。色々な場所へ乗り回せればきっと楽しいのだろうけれども、僕は優柔不断で瞬時の判断能力に欠けるところがあると自分で思っている。だから自分が運転することには恐怖すら抱いている。趣味どころじゃない。
自転車にはほぼ毎日のように良く乗るけれども、それはただ手段として乗っているだけのことに過ぎない。目的があるから自転車に乗っているのであって、自転車に乗ることそのものが目的にはならない。だからこれも趣味とは言えない。
中途半端だ。僕は全てにおいて中途半端だ。だからたとえ暇潰しとなるものはあっても、それは決して趣味へとは育たないのだ。僕は中身がスポンジのようにスカスカの人間なんだろう。だからおそらく外面にもそれが滲み出ているはずだ。
趣味がなければいけないというものではないだろうし、僕も無理をして趣味を持つ必要はないとは思う。けれども、趣味のない人生ほどつまらないものはない、と誰かが言っていたのを聞いたことがある。普段からつまらないと感じながら生活しているわけではないけれども、その後ろに薄いながらも確かに感じている虚ろさは打ち込める趣味がないことの表れなのかも知れない。